隷・桜・花(前編)

 

 

 冬休みも終わって、三学期が始まって間もない三年生の冬だった。

「か、花桜梨さん…」

俺は勇気を出して、彼女を名前で呼んでみた。

そう、幼馴染よりも深い思いを抱いている女の子に。

「…なに?」

彼女は思ったよりも普通の態度で返事してくれた。いきなり名前で呼んだから怪訝な顔ぐらいはされるかなと思ったのだが。

「あの…放課後、時間あったら屋上にきてくれないかな?」

この言葉も、かなりの勇気が要った。なぜなら…俺は今日彼女に…。

彼女は少しためらったような顔をしてこう答えた。

「…うん…時間ならあるよ…」

「じゃあ…きてくれるかな?」

俺がそう聞くと彼女は黙ってうん、とうなずいてくれた。

 

放課後、俺が屋上に行くと、俺から誘ったのに花桜梨さんは先に待っててくれていた。

彼女とは同じクラスだが、6時間めは体育だったので男女で終わる時間が違うのだ。

そういえば、花桜梨さんは今日体育を見学していた。

からだを動かすのが好きな花桜梨さんにしては、珍しいことだった。

…まあ、女の子の体調って不安定だからな…。

ぴゆうううう…と冷たそうな風が、屋上を吹き抜け、彼女のセミロングの髪を乱暴に撫でる。

こんな寒い中、彼女をこんなところに呼び出すんじゃなかったな…。でも、どうしてもこの思いを伝えるのは、この思い出の場所じゃないとダメだ。

「…どうしたの?」

花桜梨さんは紺のロングコートの前を閉めなおしながら、綺麗な二重の切れ長の瞳で俺を見つめる。

今日、花桜梨さんは一日中この紺のロングコートを着ていたように思う。

今日は特別寒かったから仕方ないかもしれない。

「…進路も大切な時期にこんなこというのは、迷惑かもしれないけど…どうしても言っておきたいことがあるんだ、一刻も早く」

 俺はありったけの勇気を出すことにした。

「俺、君のこと好きなんだ!鐘の祝福なんか要らない!一刻も早く君がほしい!!」

彼女の瞳を見つめて、俺は一息にそう伝えた。

三年生になり、俺に残酷な過去を話してくれた彼女は、バレー部にはいってとても明るくなった。

…それと同時にもともとあった存在感が表に現れてきて、彼女は急にもてだしたのだ。

今までまったく彼女をまったく相手にしていなかった男たちが、一斉に花桜梨さんに声をかけて、デートに誘うようになった。彼女は応じていないようだが…。

先につばをつけた…なんていうつもりはないが、やっぱり一年生のときから彼女を見てきた俺からすれば、納得のいくものではないし…それにやっぱり、好きな人がべつの男に声をかけられていれば、嫉妬もしてしまう。

どれくらいの時間がたっただろう。彼女は返事をしてくれなかった。

そして、彼女はようやく口を開いた。

「…今日、いまから私の家にこれる…かな?」

「いまから?」

「…ええ」

…奇妙な返事だった。

普通に考えれば、家に誘ってオッケーの返事…なのかな?

「ああ、いいよ」

俺は期待に胸膨らませて、花桜梨さんにそう返事した。

 

花桜梨さんの自宅は、あるマンションの一室だった。

匠の情報が確かなら、まだこのマンションはできてからそう間もないはずだ。俺が越してきたぐらいにできたものらしい。

彼女は自宅の鍵がかかっているのも確かめずに扉を開けた。

「親御さんがいるの?」

「…」

彼女は俺のほうを一瞥すると、返事もしないで家の中に入っていく。

そして一言「入って…」とだけ言って、俺を促した。

彼女は先に彼女の部屋に入ってゆく。

「お、お邪魔します…」

彼女の家に入るのは、これが二回目だ。

一回めは誕生日プレゼントを渡しにきたとき、招き入れてもらった。

好きな人の家に入るというのは、やっぱり緊張する…。

「よう、花桜梨。遅かったじゃないか」

!?

聞き覚えのある声が、花桜梨さんの部屋から聞こえてきた。

「…申し訳ございません、ご主人様…」

!????

いまのは、花桜梨さんの声?ご,ご主人様って…????

俺は急いで花桜梨さんの部屋に向かう。

そこにいたのは…。

「匠!?それに純…」

それに…二人に向かって土下座をしている花桜梨さんだった。

「か、花桜梨さんなんでそんなこと…」

狼狽して花桜梨さんの肩を持ちながらそう問い詰めると…。

「決まってるだろ、ご主人様をお待たせしたお詫びだよな、花桜梨」

なんと女の子赤面症候群の純が、花桜梨さんに向かってそんなことを言った。

彼女は三つ指ついて頭を床にこすりつけたまま「はい…」と答えた。

「純、おまえ女の子苦手じゃなかったのか…それになんで…」

俺のその言葉に純は明らかに嘲笑を思われる笑みを俺に向ける。三年間付き合ってきて、こんないやらしい笑みを見せたのは初めてだ。

「ああ。ああして純情な振りしてると女はたいてい油断して引っかかるんだ。ほら、二年のときダブルデートの誘った女、ああ、佐倉だったか。なかなかかわいいやつだったが、二学期なったら引っ越しちまっただろ?あれ、あのダブルデートのあと俺が個人的にデートに誘ってさ、そのままレイプしてやったんだ。いやあ、弱い力で抵抗してあれはヤリがいがあったなあ。マンコとアナル、どっちも処女奪ってやったよ。二学期なってすぐ、俺学校休んだろ?あいつの住所調べてたのさ。あいつの後追っかけてまたレイプしてやろうと思ったんだけど、北海道に逃げられちまっちゃ仕方ねえよな」

はっはっはっ、と下品な笑いを浮かべる純。

そんな純に殴りつけてやろうと思ったぐらい、はらわたが煮え繰り返っていたが体が動かない。

…信じていたものが、がたがたと音を立てて崩れたような気がした。

「花桜梨、おまえのこと好きなんだとよ。それでどうしてもおまえの前で『公開調教』してほしいって言うから、今日はおまえを呼んだのさ」

花桜梨さんをまるでサーカスの動物のように言うのは、花桜梨さんやほかの女の子の情報を提供してくれていた匠だった。

「ほら花桜梨、いつものようにやるんだ。口上も忘れるなよ」

花桜梨さんはロングコートに手をかけ、それを脱ぎ捨てた。

いくら朴念仁の俺でも、これから花桜梨さんが匠たちに何をされるのか分かっている。

やめろ、の声も出なかった…。

紺のロングコートを脱ぎ、制服のブレザーも花桜梨さんは脱ぐ。

…薄いブラウスだけになって、俺は気づいた。

…花桜梨さんの胸が、妙に上向いてパンパンに張っていることを。

花桜梨さんは俺のほうを一瞥すると、少し恥らいながらそのブラウスも脱いだ。

ノーブラの上に…時代劇で罪人を縛るような縛り方で、花桜梨さんの大きくて形のいい胸をしぼりあげるように縛り付けてある。

それもショックだったが…胸の先っちょ…ピンク色で綺麗だけどすごくエッチっぽい…についているのは…。

「花桜梨が乳首につけているイヤリング、見覚えあるだろう?」

 呆然としている俺に匠はニヤニヤしながら声をかけてきた。

「おまえがクリスマスに花桜梨に贈ってやったものらしいなあ。あれをつけておまえにいじめられてるのを妄想してオナニーしてたらしいぜぇ…うらやましいな、おい」

匠は花桜梨さんに近づくと…ピンク色のかわいらしい乳首についていた…右のほうのイヤリングをおもっきり引っ張った!

「あん!」

花桜梨さんが切なげに声をあげる。…男の俺にだって、あれがどれだけの痛みか、想像ぐらいできる。

「匠!」

「なんだよ、花桜梨の顔をよく見てみな。これが痛みに震えてる顔に見えるか?え?」

…花桜梨さんの美麗な顔は確かにゆがんでいたが…エッチな本やビデオなんかで見る…その…快感に酔った顔というか…痛がっているようにはどうしても見えなかった。

…花桜梨さんが今日コートを脱がなかったのは、体育を見学したのは、こう言った理由からだったのだ…。

夢にまで見た花桜梨さんの裸なのに…こんな形で…こんな形で…。

それでも勃ってしまう自分のモノに、俺は心底から自分の中の男に嫌悪を覚えた…。

「こいつ、いじめられて乳首立ててんだぜ。とんでもないマゾ女だろ?」

匠がイヤリングの留め具の上から乳首をなぶり、花桜梨さんをそうなじると、花桜梨さんは「はい、花桜梨は男の人に見られて、いじめられて感じるいけない女なんです…」とうつろな瞳でつぶやいた。

いったい花桜梨さんになにがあったんだろう…。

本気でこんなことをいっているのだろうか。

とうとう、花桜梨さんはシックな感じのパンティーまで脱いでしまった。

そして真っ赤な顔して俺のほうを一瞥し、また二人に向き直ると正座をして両腕を後ろに回した。そして二人を上目遣いで眺め、朗々とこう言った。

「こんな花桜梨ですが、私は縛られて犯されるほうが感じるので…ぜひ縛って調教なさってくださいませ…」

「好きな男の前でもそんなことをいえるおまえは真性のマゾだな」

純も…女の子が苦手だっていってた純も…花桜梨さんに冷たい言葉を吐いて、自分のズボンのチャックをおろすと…いきり立った男の象徴を花桜梨さんの、あれだけあこがれた花桜梨さんの綺麗な顔に近づけた…。

その間に匠は花桜梨さんの両腕を後ろ手に縛り上げてしまう。そして自分のチャックをおろすと、純と同じようにいきり立った自分のものを近づける。

「ほら、おまえの愛しい人が見てるぞ。いつもより興奮できるなあ。いつもみたいに俺たちへの隷属の言葉を述べながらしゃぶりな」

「…はい。私は愛しい殿方の前ででも複数の男の人のちんぽを舐められるはしたない、ペニス好きの女です…。こんな花桜梨ですが、ぜひご奉仕させてください…」

「仕方ないなあ…味わって舐めろよ」

「俺だっておまえみたいな恥じらいもない女に舐めさせてやるのはどうかと思うが、そこまでいわれちゃ仕方ねーな」

花桜梨さんは失礼します、と一言言うと…近づけられた二本のいきり立った男の象徴を…ぺろぺろとかわいらしい舌を伸ばして舐め始めた…。

そして匠はイヤリングがついたままの花桜梨さんの左胸を、純は右胸をむにゅむにゅともみしだきはじめた…。

「う…うん…」

左右交互に、ちゅぱちゅぱといわせながら二本のモノにしゃぶりついていた花桜梨さん・・・。

揉まれはじめてすぐに、花桜梨さんは甘い声を出し始めた。

感じているのだろうか…。

「こら花桜梨、左右違う感覚で責められて気持ちいいのは分かるが、ご主人様への奉仕がいいかげんになってるぞ」

匠にそう注意されると、花桜梨さんはしゃぶっていたペニスをいったん可憐なくちびるから離してこんなことを…。

「ご,ごめんなさい…おしおきしていただいてかまいません…」

そういう花桜梨さんを、匠はさらにこうなじった。

「いただいてかまいません、じゃないだろ。おまえがしてほしいだけなんだろう?」

「そうですぅ…あん!か、花桜梨にお仕置きしてくださいませ…」

「そうそう、奴隷は素直じゃないとな」

匠は花桜梨さんの乳首についているイヤリングの留め具をさらに絞り上げた。

「ああん!匠さま…きついですぅ…」

「せっかくしてやったのにきついだって?」

「い、いえ…気持ちいいです…」

動けない。

信じられない。

これはなにかの悪夢じゃなかろうか…。

親友だと思っていた男たちが、自分の憧れていた女の子を犯している・・・アダルトビデオだって、こんなひどい設定のビデオはなかった。

しかも、ただ犯しているだけじゃない。

隷属を誓わせ、セクサドールのような扱いで彼女の人権を踏みにじっている…。

「なあ、どういういきさつで花桜梨が奴隷になったか教えてやろうか?」

 俺の返事も待たずに、純はつらつらといきさつを語りだした…。

「早朝練習で俺が保健室の前歩いてたらよ、あんあんって卑猥な鳴き声がするじゃないか。こう見えてもレイプしまくって女のことには敏感な俺だ。すぐにピンときたね。ああ、誰かあさっぱらからオナニーしてやがるなって。結構いるんだ、人気のない時間に保健室にきてオナニーしてるスケベ女。この学校に通う何人もの女をそれで脅してレイプしてやったよ。でもこいつは特別だったぜ。なんせこんな写真集見ながらオナってやかったんだからよ」

純はいったん花桜梨さんへの陵辱…やつらに言わせればご奉仕…を止めさせる。

花桜梨さんは「私の秘密をばらしてしまわれるのですね…」と切なそうに純のモノを口から離した…。

花桜梨さんの机に歩いていく。

そして引出しから…一冊の冊子を取り出した。

それを俺に突きつける…。

題名は…「縄に溺れた女たち〜真性マゾの素人女〜」

…縛られた女性が、男性たちに隷属を誓わせられ、ろうそくをたらされたり鞭を打たれたりされている、SMといわれる系統の雑誌だ…。

「持ち歩いてるカメラできっちり写真とって、花桜梨を脅したわけさ。脅したっていっても、こいつは最初から従順だったぜ。なんせこんな写真集を中学のときから買ってたみたいでな…SMに興味があったんだとよ。写真隠し撮りしてからしばらく花桜梨のオナニー見てたんだが、健気なもんだぜ。今みたいに乳首におまえから贈られたイヤリングつけておまえの名前を呼びながら『ああん…私も彼にこんなふうにいじめられたら…』だってよ」

がははははは!と下品な笑い声と、花桜梨さんが匠に奉仕しているぴちゃぴちゃという卑猥な音が、花桜梨さんの部屋にこだましていた…。


(続)


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