沖縄の一夜・・・

 

花桜梨さんと知り合ってから一年半くらいが過ぎた頃…季節は秋の初めくらい。

俺は学校の修学旅行で、ここ沖縄に来ていた。

沖縄についた翌日、まずはクラス行動で首里城に行って長い階段を歩き続けた。

そう言えば、寿さんが階段から転げ落ちたのに思ったより痛くなかったとか何とか言ってたな・・・。

俺も試しに転げ落ちてみようかな…って、待て待て!俺は寿さんみたいに不幸には慣れているワケじゃない。

この石階段を転げ落ちていく自分の姿を想像しただけで背筋が寒くなる。

三日目が終わってから、俺はくたくたになってホテルへと戻って来た。

修学旅行は特に問題も無く過ぎて行き、いよいよ明日は個人行動が出来るのだが・・・。

誰を誘うかで、男子はそれぞれ思い思いの相手の所に誘いに出かけたり計画を立てたりしている。

(・・・純はあの性格だから、女の子を誘う事は出来るワケ無いだろうな・・・。)

匠は既にターゲットを決めているらしく、明日の予定をせかせかと立てている者たちを余裕たっぷりで眺めている。

 

そう言う俺だって相手を決めていない訳じゃない。

同じ学年の女子の中でも、恐らく五本の指に入るくらい背が高い八重花桜梨という女の子。

背が高いだけじゃなく、顔も学年中・・・いや、学校の中でもトップクラスの美少女だ。

クラスは違うが一年生の時に学校の屋上で知り合ってからというもの、何とか親しくなろうと頑張ってきた。

何故、彼女にここまでこだわるのかは俺自身も良く分からなかったりする。

ただ、その儚げな雰囲気に惹かれたと言うか・・・、何だか不思議と気になる存在の娘だった。

花桜梨さんも最初は素っ気なかったけど一緒に遊びに行く事も多くなってきて、少しずつだが前進できたって感じだ。

それに、明日の自由行動で一緒になれたらいろいろと話すこともできるだろうし・・・。

その後、風呂に入ろうと思い、着替えなどを持って地下の大浴場へ向かう途中・・・。

ドンッ!

 

「うわっ!」

「きゃっ!」

 

俺は曲がり角で誰かにぶつかり、そのまま廊下に尻餅をついてしまった。

ぶつかった相手も短い悲鳴をあげて、俺と同じように廊下に倒れた。

 

「いてて・・・!って、花桜梨さん・・・?」

「あ・・・、**君・・・。」

「ご、ごめん!大丈夫だった?」

 

よくよく見ると、俺の目の前にいる相手は花桜梨さんだった。

黒いタンクトップの上に白いシャツといったかなりラフな服装をしている。

ひょっとしたら、もう入浴を済ませて部屋に戻る途中なのかもしれない。

(・・・う〜ん、抜群のボディーラインが露わになっていて何とも・・・。)

・・・だ、駄目だ!変なことを考えている場合じゃない!ここで花桜梨さんに会ったのも何かの縁だ。

思い切って、明日の自由行動の相手をしてもらえるように誘ってみよう。

 

「あ・・えっと、明日の自由行動だけど・・・。」

「・・・!そ、その事なんだけど・・・。私・・特に一緒に行く人いないから・・・その・・・。」

「!?」

「だから・・・い、一緒に・・・見学してくれないかな・・・。」

 

思いも寄らなかった花桜梨さんからの誘いに俺は驚きを覚えつつ、二つ返事で了承していた。

「う〜ん、あの花桜梨さんから誘われるなんてなぁ・・・。」

 

入浴を済ませてから、俺は部屋に戻ってベッドに寝転びながら呟いていた。

今までに花桜梨さんから誘われた事は無かった。彼女の控えめな性格を考えれば無理もないが・・・。

 

「おい、難しい顔してどうしたんだよ?」

「うん?・・ああ、ちょっとな・・・。」

「修学旅行中だってのに悩みか?お前も相変わらずだなあ。」

 

俺の独り言を聞いていたのか、同じ部屋の匠が声をかけてきた。

こいつは悩みなどとはまるで無縁のような男だと思うが、過去に俺の相談を何度も聞いてくれた。

普段はしたたかでいろいろとムカつくところがある奴だが、意外と良いトコロもあるようだ。

先ほどの出来事を話そうかとも思ったが、結局やめておいた。

匠に話しても、こればっかりはどうなる訳でもないし別に話すような事でもないだろうから・・・。

とりあえず、その日は明日の事を考えてさっさと寝る事にして目を閉じた。

翌朝、ロビーに降りると既に多くの生徒たちが集まっていた。

・・・みんな今日の自由行動の相手がいるのかな・・・。

辺りをきょろきょろと見回してみたが、まだ花桜梨さんは来ていないみたいだった。

しばらく待つか・・・。

近くにあったソファーに腰を下ろして他の連中の様子を眺めてみる。

匠は匠で色んな女の子に囲まれているし、純は・・・・おや、意外にもちゃんと相手を見つけているぞ。

俺は純に影ながらエールを送ると、再び視線を別の所に向けた。

・・・と、廊下の奥からこっちへ歩いてくる人影が見えてくる。

 

「おはよう。遅れちゃってごめんなさい・・・。」

「あっ、おはよう。それじゃあ、行こうか。」

「あの・・・遅れた訳を訊かないの?」

 

ちょっと意外そうな花桜梨さんの声に振り返りつつ、俺は笑ってこう返事をした。

 

「いや、女の子っていろいろと出かけるのに手間がかかるって聞いたから。それに、時間はたくさんあるんだし。」

「そ、そう・・・、ありがとう・・・。」

 

俺自身はそれほど深い意味で言った訳ではなかったのだが、花桜梨さんは考え込むような表情をしながらお礼を言ってきた。

今までに見た事のない表情だったので、思わずまじまじと花桜梨さんの顔を見つめてしまう。

・・・そ、そんなに考え込むような事を言ったかな・・・?

 

「・・・どうしたの?行きましょう。」

「あ、うん・・・。」

 

俺の考えとは裏腹に、花桜梨さんはすぐにいつもの調子に戻ると先を歩き始めた。

(・・・ま、いいか・・・。)

ホテルから少し歩いてマリーナに行くと、桟橋にヨットが停めてあった。

花桜梨さんは海風にセミロングの髪をなびかせながら、気持ち良さそうに目を閉じてこう言った。

 

「沖縄って何だか自然の気配が強い気がする・・・。」

「花桜梨さんって、自然とかそういうのを感じやすいんだね。」

「そんな事ないよ・・・。ただ、蒼くて澄んだ海を見ているとそんな風に思えてくるんだ・・・。」

「・・・・・。」

 

俺は黙って海の向こう、地平線を眺めてみた。まるで、このままどこまでも続いているように見える。

・・・と、不意に何かが俺の隣に来た事が空気が僅かに揺れて分かった。

ふと隣を見ると、花桜梨さんも俺と同じように海の向こうを穏やかな・・・そして澄んだ瞳で見つめていた。

(・・・・何だかこうやって見ると自然を感じている花桜梨さんって、すごく不思議な魅力があるよな・・・。)

ぼーっと花桜梨さんの横顔を見ていると、俺の視線に気付いたのか彼女も俺の方に顔を向けてきた。

 

「・・・ねえ、あなたはどうして私と一緒に居てくれるの?」

「え?それは・・・。」

 

前にも同じ事を訊かれた事があったはずだ。それは一年生の頃・・・。

スキーで足を挫いた花桜梨さんを背負って下まで降りて行く途中だったと思う。

もう少しでロッジだという所で、急にそう訊いてきたのだ。俺はその時になんて答えたのだろうか・・・。

えーと、確か・・・。

(理由は俺にもよく分かんないよ。ただ、花桜梨さんと仲良くなりたいだけ・・・かな。)

(・・・私と仲良く・・・?・・・それだけなの?それだけで今までいろいろと声をかけてくれたり、今もこうやって下まで運んでくれているの?))

(そうだよ。・・・花桜梨さんだって、もしも目の前で人が転んで動けなくなったら助けようとしない?)

(・・・・・。)

 

花桜梨さんは返事をしなかった。・・・返事に困ってる?いや、俺の言葉が意外に思えたらしい。

 

(・・・私は・・・。)

(・・・うん?)

(・・・ううん、何でも無い・・・。)

 

その後、軽い捻挫だと診断された花桜梨さんは大事を取ってその日のデートを早く切り上げて帰ることになった。

その翌日に、思わぬ事を言われてマジで焦ったんだけどな・・・。

「・・・・**君?」

「・・・!あ、いや・・・。」

「・・・・。」

「何て言うのかな・・・。前にも言ったと思うけど、深い意味なんか無いよ。

 花桜梨さんと友達になりたいからって言うか・・・俺がそうしたいからなのかもしれないし。」

「・・・そうなんだ・・・。」

 

それ以上は花桜梨さんは何も訊いてくる事はなかった。

けど、俺と彼女の間には緊張感もぎこちなさもなく、自然で穏やかな雰囲気に包まれていたと思う。

しばらく海を眺めてからのち、花桜梨さんはその場からゆっくりと歩き出して俺に視線で合図を送った。

俺はそれに従って歩き出しながら、風に揺れる彼女のセミロングの髪をぼんやりと眺めていた。

その後、俺と花桜梨さんは熱帯植物園に来て見学をしていた。自然が好きな彼女にとっては打ってつけの場所だ。

 

「すごい・・・ひびきのの植物園じゃ見られない植物がこんなに・・・。」

「やっぱり沖縄だからね。ここにしかない種類の植物が多く植えてあるんだろうね。」

「あなたは植物とかは好き?」

「そうだなぁ・・・、好きって言うかたまに何にも考えないでぼーっとしたくなる時があるんだ。

 そう言う時には植物園とか中央公園に行くとやけに落ち着くんだ。」

「ふふ・・・、それって無意識のうちに身体が自然を求めているのかもしれないね・・・。・・・!」

「ん?」

 

突然、花桜梨さんの表情が変わった。何だと思って後ろに振り返ってみると・・・・。

 

「シュルルルル・・・!!」

「げっ!(巨大ハブ〜〜!!?)」

 

何でこんな所に巨大なハブがいるのかは分からないが、ここは逃げた方が良さそうだ。

俺は花桜梨さんの手を掴むと一気に走り出した。

 

「どこに逃げるの!?」

「分からない!とにかく、あの化け物から逃げ切れるまで走るんだ!」

「シュルルル!!」

 

 

その後ろからは大きな口を開けた巨大ハブが迫ってくる!

その体長は見ただけでも軽く10mは越えていることが分かった。

ズルズルと巨大ハブが地面を擦る不気味な音が俺たちの後ろから響いてくるのだが、

次第にその音が近づいてきている。

このままでは確実に追いつかれてしまう、そう考えた俺は走りながら花桜梨さんに呼びかけた。

 

「花桜梨さん!俺があいつの気を反らすから、そのうちに逃げるんだ!」

「えっ!で、でも・・・!」

「いいから!早く!!」

 

花桜梨さんは躊躇うような表情を見せたが、こくりと頷いて思い切ったように横道に入り込んだ・・・が!

ここで俺が予想していなかった事が起きてしまった。

巨大ハブが横道に逃げた花桜梨さんの方を追いかけ始めたのだ。

どうやら奴も化け物とは言え、俺みたいな野郎を喰うよりは花桜梨さんみたいな綺麗な女の子を食べたいらしい。

俺はしまったと思う反面、自分の自尊心にセピア色の傷が付くのを感じながらハブの後を追った。

「はぁ・・・!はぁ・・・!や、やっと追いついた・・・!?」

「・・・・・。」

「花桜梨さん!!」

 

俺が駆けつけるとそこには腕から血を流して倒れている花桜梨さんの姿と、今まさに彼女を飲み込もうとしている巨大ハブの姿が!

俺は咄嗟に足元の石を拾うと力一杯ハブの頭に投げ付けた。

ガッ!

 

「・・・!」

「この化け物め・・・!」

「シュルルル・・・!!」

 

巨大ハブはその巨体をゆっくりとこちらに向けると、大きな鎌首をもたげて俺を睨みつけてきた。

俺に食事の邪魔をされたことで、相当獰猛になっているようだ。二股の舌をチロチロと出して俺を威嚇している。

俺と奴ではまるで身体の大きさが違う。俺が下手に並半端な攻撃をしても泣きを見るだけだろう。

 

「シャアアァァ!!」

「!!」

バシッ!!

「ぐふっ・・?!」

 

痛い、とは思わなかった。

そして恐怖を感じることもなかった・・・いや、恐怖を感じる暇すら与えられなかったたのかもしれない。

視界に何かが入ったと思った瞬間に、俺は巨大ハブの太い尾に打ち付けられていたのだ。

尻尾を使った強力な打撃攻撃・・・テールパンチとでもいったところだろうか。

地面の上を土ぼこりをあげながら後方にごろごろと転がりながら、俺は口の中に血の味独特のしょっぱさが広がってくるのを感じていた。

ようやく身体の回転が止まった直後、起き上がる暇も無く今度は背中に強烈な衝撃が走る!

俺はついさっき前から尻尾での一撃を受けた時のように、再び前方に吹き飛ばされた。

 

「・・・ぐっ・・・!」

「シュルルル・・・!」

「ち、畜生・・・!」

 

バレーで散々身体を鍛えていたからこそ耐えられたものの、匠みたいに普段遊んでいたら今の攻撃で失神しているはずだ。

歯を食いしばって立ち上がると、油断していた巨大ハブの胴体(?)に渾身の力を込めて右ストレートを打ち込んでやった。

・・・しかし!

 

「マジかよ・・・!」

「・・・・・シュルルル!」

「ぐっ!!」

 

俺のパンチなどまるで効いてもいないといわんばかりに、奴はぼろぼろになった俺の身体を尻尾で吹き飛ばした。

背中に鈍い衝撃を受けて、思わず呼吸困難に陥ってしまう。

奴の尻尾は俺だけを吹き飛ばしただけに留まらず、周りの草木をも次々になぎ倒していった。

身体中に走る激痛に苛まれながら、俺は必死になって考えた。

(・・・奴の鱗は俺の打撃なんかまるで受け付けない・・・。どうすればいいんだ・・・!)

もう立ち上がるだけの力さえ残されていない。

あとはこのまま巨大ハブの巨大な口から丸呑みにされて、花桜梨さんともども奴のエサになってしまうしかないのか・・・?

嫌だ・・・!折角・・・折角、花桜梨さんとも親しくなってきて・・・まだまだ話だってしたい・・・!

だから・・・ここで死ぬなんて・・・嫌だ!!

 

「シャアアアァァ!!」

「・・・・ッ!」

 

地面を転がって、辛うじて巨大ハブの噛み付きを避ける。・・・その直後、俺の視線と奴の爬虫類独特の鋭い視線がぶつかった。

(・・・そうだ!!ココがあった!)

そう閃いた時には既に行動を起こしていた。火事場の馬鹿力とか何とやらかもしれない。

痛みをも忘れてその場から起き上がると、近くに散らばっていた草木の中から比較的太い木の枝を拾い上げた。

そして・・・!

 

「!!!(これなら・・・どうだ!!)」

グサッ!!

「シャアアァァッ・・・・!!」

「(今のうちに・・・!)」

 

巨大ハブが高く頭を上げる前に、俺は奴の片目に深々と木の枝を突き刺した。

片目を潰された苦痛に巨大ハブが激しくのた打ち回る。もはや、奴には俺の姿を的確に捉えるだけの余裕は残されていないみたいだ。

俺は巨大ハブが苦しんでいるその隙に花桜梨さんを背負うとその場から急いで立ち去った。

巨大ハブの姿が完全に見えなくなってから、俺は花桜梨さんを地面に寝かせると腕の出血を見た。

出血の量は少ないものの、白い腕に丸い穴の様な傷がくっきりと残っている。

ハンカチで腕を縛って毒の回りを抑えてから、次にどうすればいいか思案に暮れた。

(早く血清注射を打たないと・・・!でも、病院なんてこの辺りにあるのか・・・!?)

初めて来た沖縄の地理なんかわかるはずもない。間の悪い事に、付近を通りかかる人も居ない。

目の前では花桜梨さんの顔色がどんどん青ざめていく。

医療に詳しくない俺でもはっきりと分かった。・・・このままでは間違い無く花桜梨さんは死んでしまう・・・と。

(どうすればいいんだ・・・!!このままじゃ花桜梨さんが!)

絶体絶命の危機に俺は頭が狂ってしまいそうなくらいに焦り、精神的に追い詰められていた。

だが・・・!

 

「はいはい、ちょっといいかな〜?」

「・・・!?あ、あなたは・・・。」

「あ、私?あ〜、私はただの通りすがりの女医よん。それよりも、そこの彼女・・・。ヤバイんじゃないの?」

「!!そ、そうなんです!巨大なハブに襲われて・・・!」

「やっぱりね〜・・・。でも、私に任せてくれればオッケーよん!私が特別に調合した血清注射を打てば・・・。」

 

突然俺の前に現れた通りすがりの女医さんは、持っていた黒い鞄から注射器を取り出すと花桜梨さんの血管に血清を打ってくれた。

 

「はい、これでバッチリよ。あとはゆっくりと休ませてあげることね。」

「あ、ありがとうございます!本当に・・・本当にありがとうございます!!」

「まあまあ・・・、そんなに頭を下げないの、少年・・・じゃなかった、学生さん。

 ・・・あ、そうそう!もうすぐ救急車が来ると思うから一緒に付き添ってあげるのよん。」

「は、はい!」

「あと・・・これ。目が覚めたら彼女に飲ませてあげて。これも私が調合した特製の栄養剤よ。」

「あ、ありがとうございます。・・・あの、どこかでお会いしてません・・・よね?」

「!!ま、ま、まさか・・・。そ、それじゃあ私はこれで失礼するわね。じゃ、じゃあね!少年・・・じゃなくて、学生さん!」

 

謎の女医さんはそう言って、あっと言う間に立ち去ってしまった。

・・・どこかで見たような気がするんだけど・・・サングラスとマスクをしていたから良く分からなかったな・・・。

(・・・あ・・やばい・・・俺も意識が・・・。)

僅かな疑問が残って不思議に思いながらも、俺自身も巨大ハブにやられたダメージのせいで意識を失ってしまった。

気が付くと俺は病院のベッドの上だった。隣を見ると、腕に包帯を巻かれた花桜梨さんの姿がある。

 

「・・・花桜梨さん、助かったんだね。良かった・・・。」

「うん・・・。それよりもごめんなさい・・・、私なんかのために・・・。」

 

何だか照れるけど、お互い大した怪我も負っていなくて良かった。

俺も巨大ハブからあれだけ派手にやられたのに関わらず、骨折の一つもなかったのは本当に不幸中の幸いだ。

その後は迎えに来た先生に付き添われて俺たちは宿舎のホテルへと戻って来た。

・・・やれやれ、とんだ一日だったなぁ・・・。

その夜・・・。

 

「あの・・・、ちょっと・・・いい?」

「??」

 

俺が寝る前にホテル内をぶらぶらと散歩していると、急に後ろから花桜梨さんに呼び止められた。

どうやら俺を探していたようだ。

 

「えっと・・・この近くに・・・景色のいい場所があるって聞いたんだけど・・・。・・・その、よかったら・・・。」

「・・・えっと、それって俺も一緒に行って構わないって事?」

「えっ、・・・あ・・うん、そう・・・。」

「じゃあ、ちょっと待ってて。用意をしてくるから。」

 

とりあえず、ロビーで待ち合わせをする事にして俺は部屋に戻った。

半袖のTシャツの上に薄い上着を羽織って準備は万端だ。

・・・ん?待てよ・・・。

ふと俺は昼間の事を思い返してみた。あの女医さんは俺に特製の栄養剤を渡してくれたっけ・・・。

確か・・・あれは制服のズボンのポケットに入れておいたはずだ。

 

「・・・・あった!これを花桜梨さんに飲ませてあげればいいんだよな。」

 

俺は上着の胸ポケットに栄養剤の入った小ビンを入れると、急いでロビーに向かった。

見回りの先生にバレないように、注意深く辺りを見回しながら花桜梨さんの姿を探す…と。

彼女は柱の影から俺の方に手を振って見せた。

裏口から外に出ようとの事らしい。

 

「花桜梨さん、お待たせ。」

「うん・・・。急に誘ったりしてごめんなさい・・・。」

「いや、丁度時間を持て余していたから丁度良かったよ。」

「そう・・・、良かった・・・。それじゃ、行きましょう・・・。」

 

花桜梨さんと二人で宿舎のホテルを抜け出して向かった所は、ホテルの近くにある広場だった。

夜空には無数の星たちが輝きながら俺たちを見下ろしている。

(・・・こんなに星が多く見えるなんて・・・。)

 

「星っていいよね・・・。何万年も前からずっとあんなに輝き続けていられるんだから・・・。」

「花桜梨さん、星が好きなの?」

「どうだろう・・・。好きって言うよりも、羨ましいだけかもしれない・・・。」

「花桜梨さん、星に比べたら人間って輝ける時間は僅かかも知れないけど・・・・。」

「・・・けど?」

「輝ける時間が僅かだからこそ、精一杯輝こうって思えるんじゃないかと思うんだ。星にも負けないくらいにね。」

「・・・・。」

 

・・・しまった、クサかったかな・・・?

俺は自分の台詞に後悔しつつ、次の言葉を捜そうとしたが・・・。

そんなに簡単に体裁を取り繕う事が出来るほど、俺は器用じゃない。

 

「あ〜・・・、ご、ごめん・・・。変なこと言っちゃったね。」

「ううん、確かにそうだよね。・・・私もそう言う風に考えられたらいいのにな・・・。」

「えっ?」

「あっ、何でも無いから・・・。気にしないで・・・。」

 

思ったより、花桜梨さんの反応が意外だったのに驚いてしまった。

まあ、呆れられるよりはいいか・・・。あ、そうだ。今のうちにあれを渡しておくか。

 

「花桜梨さん、昼間に君を助けてくれた女医さんがこれを飲むようにって。」

「??これって・・・。」

「何だかよく分かんないけど、女医さんが調合した栄養剤だって。」

「そう・・・、ありがとう。」

 

花桜梨さんは小ビンを受け取るとポケットにしまい込んだ。

 

「そろそろ戻ろうか?」

「うん・・・。・・・・**君、今日は本当にありがとう・・・。」

「いや・・・、お礼を言われるほどの事じゃないよ。・・・じゃあ、行こうか。」

(いや〜、いい夜だったなぁ・・・。修学旅行のいい思い出が出来た・・・。)

部屋に戻ってから、俺はベッドの上で一人にやけながら先ほどの事を思い返していた。

匠は女子の部屋に遊びに行っているらしく、まだ戻ってくる気配が全く無い。

・・・多分、今夜は戻らないだろうな・・・。

少々、悔しい気もするが・・・まあ、俺はあいつと違って女の子だったら誰でも良いってワケじゃないからな・・・。

とりあえず、今夜はこれで寝る事にしよう・・・。

コン、コン!

(・・・?誰だ?匠だったら無視して寝よう・・・。)

俺は瞼を擦りながら、部屋のドアを少しだけ開けてみた。

そこには・・・。

 

「・・・あの・・、こんな遅くにごめんなさい・・・。はぁ・・・はぁっ・・・!ちょ、ちょっと中に入ってもいい?」

「花桜梨さん?あ、今開けるから。」

 

俺がチェーンロックを外した途端に、花桜梨さんは自分からドアを押し開けて部屋に入ってきた。

・・・と、思ったら今度は自分からドアの鍵をかけてしまう。

 

「あの・・・、花桜梨さん。一体、どうしたの?」

「はぁっ・・・はぁ・・・っ!な、何だか身体が熱くて・・・。へ・・・部屋に・・・はぁ・・・ッ!・・だ、誰かいる・・・?」

「いや、誰もいないよ。それより、体が熱いって・・・ひょっとして血清注射の副作用とか!?」

 

血清注射に副作用などある訳無いと思うが、花桜梨さんの様子が明らかにおかしい。

さっきまでは全然普段と変わらなかったのに・・・?

顔は真っ赤だし、冷や汗もかいている。それに・・・目元も潤んでいるし、まるで・・・。

 

「とりあえず、ベッドに横になった方がいいよ。待ってて!今、水を持ってくるから!」

「駄目ッ!!」

「!か、花桜梨さん・・・?」

「お願い・・ッ!傍に居て・・・!」

 

・・・そ、そんな目で見つめられると・・・!

妙な色気を漂わせている花桜梨さんに圧倒されてしまいそうなのを俺は堪えて彼女の手を握り締めた。

 

「・・・はぁはぁ・・・、あの栄養剤を飲んだら・・・急に・・・身体が熱くなってきて・・・はぁ・・んっ・・・!」

「栄養剤を飲んだらって・・・。(あの女医さん、変な薬と間違えたのかな・・・。)」

 

鼻にかかったようなエッチっぽい声をあげて悶える花桜梨さんに、俺はただただ戸惑うばかりだ。

一体、ナニをすれば良いと言うのだろうか?と、とりあえずベッドまで連れて行ってあげないと・・・。

 

「花桜梨さん、とにかく俺の肩に掴まって。」

「うん・・・んッ・・・はぁ・・・っ!はぁ、はぁ・・・!」

「・・・・。」

 

耳元で花桜梨さんの熱い吐息が俺の中の男を刺激する。流石にこれ以上は何かの糸が切れてもおかしくない状況だ。

・・・い、いかん!このままじゃ・・・!ダメだ、花桜梨さんを介抱しなくちゃいけないんだ・・・!

何とか頭を切り替えようとして別の事を考えるのだが、俺の意識はあらぬ方向に向かったまま修正できそうも無い。

早いところ花桜梨さんを寝かせた方がいいと思った俺は、急いでベッドへと向かった・・・が!

 

「ねぇ・・・**君・・・!ッ・・はぁ・・・身体が熱いの・・・何とかして・・・。」

「何とかしてと言われても・・・。」

「服・・・脱がせて・・・。」

「!!!そ、そんな事できる訳ないじゃないか!」

「早く・・・っ!私・・・死んじゃいそう・・・!」

その時の俺は、花桜梨さんの色気に圧倒されて、まともな思考が働いていなかったらしい。

俺は大きく深呼吸をしてから、一気に花桜梨さんの服を脱がし始めていた。

もともと簡単な服装だったからそれほど手間はかからない。

花桜梨さんも俺がシャツを脱がしやすくするために、自分から腕を上げてくれた。

豊かな胸を包んでいた白いブラジャーもまるで邪魔だと言わんばかりに自分から外してしまう。

(・・・か、花桜梨さんの・・・ゴクリ!)

思わず生唾を飲み込んでしまう。まさか、こんな所で花桜梨さんの一糸纏わぬ姿を拝めるなんて・・・!

 

「下も・・・脱がせて・・・。」

「いいの・・・?」

「うん・・・。」

 

恐る恐る半ズボンを脱がせてみると、その下からはブラジャーと合わせるかのような白い下着が露わになった。

しかもよくよく見ると・・・。

 

「花桜梨さんのここ、何だか湿っているよ・・・?」

「はぁはぁ・・・、私もよく分からないけど・・・はぁ・・・っ!身体の奥が熱くなってきて・・・何だか変な感じになっちゃったの・・・。」

「俺はどうしたらいいの?」

「・・・胸に・・はぁっ、はぁっ・・・触わって・・・。」

 

言われるがままに花桜梨さんの胸に手を当ててみる。すべすべして柔らかい。

普段は白い(であろう)彼女の肌が上気してほんのり赤くなっているのだが、それが何だか官能的に見える。

俺は自分でも気付かないうちに、花桜梨さんの乳房を揉みしだき始めていた。

片手で乳房を揉みながらもう片方の手を下着の中に忍ばせて秘部を弄る。

直に触れてみると、下着の上から触るよりもはっきりと濡れた感触が指に伝わってくる。

彼女が欲情している事を改めて実感した俺は、無我夢中で花桜梨さんのその部分を刺激しまくった。

 

・・くちゅ、ずちゅちゅっ・・・!

「あんっ・・・!はぁ・・・ッ!んんッ・・・はああぁん!」」

「花桜梨さん、気持ちいいの?」

「・・・あんっ!き・・気持ちいい・・・。あん、ああん!・・・ねぇ・・・キスして・・・。」

 

快感に美しい顔を歪めながら、キスを求めて来る花桜梨さん。

俺は吸い寄せられるようにして、その端正な唇に自分のそれを重ね合わせた。

(・・・んっ!)

重なり合った唇の間を割るようにして花桜梨さんの舌が差し込まれてくる。

温かくて柔らかい舌が俺の舌を捉えて絡みつく。

・・・これが花桜梨さんの味なんだ・・・。

 

「んッ・・・ふう・・・、ねぇ・・・胸だけじゃ駄目みたいだから・・・。」

「えっ・・・?」

 

充分にキスを味わってから、花桜梨さんがとろんとした目で俺を見つめてきた。

俺が一瞬、何を言っているのか分からずにきょとんとしていると・・・。

 

「・・・お願い・・、来て・・・。」

「ほ、本当にいいの?」

「・・・いいから・・早くっ・・・!もうおかしくなりそうなの・・・!」

 

・・・ここまで言われたら、やるしかない・・・!

俺はズボンと下着を脱ぐと、さっきから痛いくらいに勃起しているそれを彼女の秘部にあてがった。

何故花桜梨さんがこんなにエッチに乱れているのかは分からないが、据え膳喰わぬは漢の恥・・・!

 

「行くよ・・・!」

ずっ、ずぶぶぶっ・・・!

「はあああぁんっ・・・!!」

 

奥まで一気に突き入れてから、俺は結合部分にちらりと目をやった。

なんと、その部分からは愛液と一緒に混じって血が流れ出ているではないか!

・・・えっ、花桜梨さんって処女だったのか・・・!?

てっきり経験済みだと思っていた俺は、呆気に取られてしまいそのまま動きを止めてしまった。

 

「か、花桜梨さん初めてだったの!?」

「大丈夫・・・。何だか分からないけど・・・そんなに痛くなかったから・・・。」

「痛くなかったからって・・・。」

 

花桜梨さんが飲んでしまったのは漫画に出てくる媚薬みたいなものかもしれない。

だから、初めてなのにそれほど痛くなかったり、こんなに積極的だったり・・・。

・・・じゃあ、別に俺が好きでこういう事をしようとしたワケじゃないんだよな・・・。

 

「はぁ、はぁ・・・、もっと動いて・・・。」

「花桜梨さん・・・!花桜梨さん・・・!」

ずっ!ずぶ、じゅぶっ!じゅぶぶっ!!

「あああんっ!いいっ・・・、いいのぉ・・・!もっと突いてぇっ!」

 

普段の物静かな花桜梨さんとは思えないくらいに喘ぎ、悶え捲る花桜梨さんを俺はひたすら突きまくった。

室内には花桜梨さんの喘ぎ声が響き渡り、それは隣の部屋にまで聞こえないかと心配になるくらいだ。

好きな女の子とのセックスなんだから、気持ち良くないはずがない。

挿れてからそんなに時間は立っていないのに、早くも射精の衝動と根競べをしていた。

 

ぐぶっ!ぐぷっ!ずぶっ、ずぷっ!

「奥まで・・・奥まで当たってる・・・!はああぁん!あぁ・・ッ!気持ちいいっ・・・!」

 

俺が腰を突き動かす度に、花桜梨さんの身体もがくがくと揺れて大きな乳房もゆさゆさと上下に弾んでいる。

俺自身を包み込む彼女の媚肉の温もりと互いが擦れ合う刺激、それに加えて花桜梨さんの喘ぎ声・・・。

それらの全てが一体となって、震えるような快楽のうねりを生み出していた。

 

「花桜梨さん、俺も・・気持ちいいよ・・・ッ!」

「好き・・・っ!あん!んあぁ・・ッ!**君・・・好きなの・・・!」

 

(・・・!!)

・・・好き?花桜梨さんが俺の事を・・・好き・・・なのか?

俺は花桜梨さんが口走った『好き』という言葉に、我慢の限界が一気に近づくのを感じた。

 

「花桜梨さん・・・!俺・・もう・・・!」

「ふああ・・・!あん、あん!待って・・・もう少しで私も・・・!ああんっ!」

「・・・ッ!駄目だ!」

「あんっ!ああんっ・・・!ふああ・・!ああぁっ・・・!」

どくっ、どくっ・・・どくん・・・!

 

花桜梨さんの感極まった声と同時に、俺は勢いのまま彼女の胎内に自分の欲情の証を放っていた。

「ごめん・・・、中に出しちゃって・・・。」

「・・・私こそごめんなさい・・・。急に押しかけてきた上に、こんな事を・・・・。」

 

俺が一回目の射精を終えた直後、花桜梨さんはまるで物足りないかのように俺を再戦を求めてきた。

萎えかけた俺のモノを彼女は自分の両手、口・・・、それに胸を使って大きくしては自分から俺の上に跨った。

淫靡に喘ぎ、何度も何度も俺の上で果てては切なげな声を上げ、快感の余韻が冷めぬうちに再び腰を自ら動かして絶頂を迎える。

そんな事を幾度と無く繰り返してから、花桜梨さんはようやく満足したのか俺の上から退いてベッドに身体を横たえた。

そのすぐ後で正気に戻ったらしく、彼女は事の重大さに初めは顔を真っ赤にして戸惑っていた。

 

「・・・・私、どうかしてたんだね・・・。あなたに迷惑をかけて・・・、それに・・・。」

「俺は迷惑だとは思っていないけど・・・。やっぱり、花桜梨さんは後悔しているの・・・?」

「・・・分からない・・・けど、そんなに嫌な気分じゃないわ・・・。」

「俺も同じだよ。それに花桜梨さん、すごく綺麗だったし・・・。」

 

花桜梨さんは何も答えなかった。照れているのでも、後悔して落ち込んでいる訳でもない。

初めての経験を終えた後で、疲れて何も話せないでいる風でもなかった。

花桜梨さんが返事をしなかった理由は俺にも分からないけど、何て言うか・・・複雑な心境なのだろう。

 

「・・・私、部屋に戻るね・・・。」

「そっか・・・、時間も大分遅いからね・・・。」

 

本当はこのまま朝まで一緒に同じベッドで眠りたかったけど、ここは俺の家でも何でも無い。

もしも朝になって俺の部屋から花桜梨さんが出てきたところを見られたら、いろいろと噂されるはずだ。

 

「お休みなさい・・・。」

「うん、お休み・・・。」

 

花桜梨さんは最後に静かな微笑みを見せると、ゆっくりと部屋を出て行った。

彼女がいなくなった部屋で、俺は行為の最中に花桜梨さんが口走った言葉を思い出していた。

 

(あの時・・花桜梨さんは俺の事を好きだって言ってくれた・・・。あれは・・ただの勢いなのかな・・・。)

 

胸がきゅっとしめつけられるような感覚を覚え、思わず俺は枕に顔を埋めた。

花桜梨さんが残していった温もりと、快楽に溺れて淫美に喘ぐあの表情・・・。

それが行為が終わった今でもぼやける事無く、いつまでも俺の胸の中に残っている。

 

(花桜梨さん・・・。俺は・・俺は君の事が・・・。)

 

俺は真っ暗な室内で一人、枕に顔を押し付けて涙を流していた。

・・・何故、俺は泣いているんだろうか?

むしろ、泣きたいのはこんな形で処女を失ってしまった花桜梨さんの方なのかもしれないのに・・・。

枕を濡らして・・・顔をみっともなく歪ませて・・・。

いつまでも・・・いつまでも泣き続けるのだった・・・。

 

オマケ…

一方、通りすがりの女医は・・・。

 

「あれ?夜のバイト専用の媚薬が無くなってるわね・・・。あっ!栄養剤がこんなところに!?」

 

どうやら、本来渡すはずだった栄養剤と自分専用の薬を渡し間違えたようである。

彼女はしばらくおたおたとしていたが、すぐにいつもの調子に戻って呟いた。

 

「・・・ま、いいか。・・・少年!お姉さんの代わりに、今夜はあの彼女とハッスルするのよん♪」

 

【Fin...

 

あとがき

 

毎度どうも、ATFです。リクエスト第二弾で、二年目の沖縄修学旅行編でございます。

二年目の花桜梨さんの台詞がなかなか難しくて、途中で詰まりかけましたが何とか完成させる事ができました。

信じようかどうかで揺れ動く微妙な時期ですので、その辺りが一番書きにくかったりします。

ご意見、ご感想などもお待ちしております。それでは、また・・・。


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